リオデジャネイロ出身のトニー・ボカは作曲から作詞、演奏までこなす完璧なミュージシャンである。洋服の仕立てをする母とと靴屋の父の間に生まれたトニーは、リオのカツンビ、リオ・コンプリードやサンタ・テレーザの近くで子ども時代を過ごした。空いた時間は常にボールを操っていたトニーであったが、音楽への情熱は抑えきれなくなっていく。バセアード・エン・ブルースやスイ・ジェネリースの設立者でもある。ギターに心酔し、18歳の時にはアイアン・メイデンやラッシュの影響を受けたバンド、グラビダーデ・セレチーバの活動を始める。歌唱とギターの響きの研究を重ね、ボサノバを演奏して欲しいとの希望に応えるべく、不協和音の勉強も始める。MPBを理解しそして、好むようになったトニーは1996年にヴィニーのCDアルバム「Todo mundo」に参加する。トニーとヴィニーがペアを組んだ作品として、「Heloísa, Mexe a Cadeira」のロックバージョンの他にも「Sandrinha」が本作には収録されている。
その一年後、トニーはバンドの一員となり、ステージでヴィニーの隣に立ちながらブラジル中をツアーで回っている。「Ultra」はトニーの初アルバムのタイトルにもなり、かつ第一曲目に収録された。現在、36歳のトニーはSteve Ray Vaughan やRenato Russoの影響を受けつつ、Nando Reis から The Policeのスタイルまでを身に付け、ギタリストとして、そして1人の表現者としてのロックやMPB、音楽への貢献やプロ意識などから彼の全てがわかるのだ。
このアルバムは、非常に良く練られた作品でアレシャンドレはコンセプトはもちろんのこと、すべての楽器を演奏している。全てを彼が手がけた詞と“TEMPO”というテーマと良くマッチした音楽はプログレッシブ・ロックからMPBやクラシックの雰囲気も感じさせる。彼はこの作品にかなりの力を注いでいる。ベルナルドによるジャケット、ポルトガル語、英語、スペイン語、エスペラント語の4ヶ国語に対応したマルチメディア、3曲にのぼるボーナストラック、ジェントル・ジャイアントによるボーカルアレンジ、ブラジルのプログレッシブロックのA Barca do Solを思い起こさせるような作曲、これら全てが混ざり合ったこの作品は2004年のベストというにふさわしい。